マネー崩壊 新しいコミュニティ通貨の誕生

ベルナルド・リエター著  要約:株式会社システムズ 山崎裕司

1.近代マネーの本質
 「物々交換している村に、通貨というものを知っているものがやってくる。通貨を作ってみんなに渡し、これで便利になるだろうと提案した。その代わりに1年後、お礼の印に1割の利子を要求した。村の生産高が一定とすると、1年後には1割の財が彼のものとなり、1割の村人は全てを失うことになる。」

 著者は、これが近代マネーおよびそれに伴う利子の本質だとする。したがって、私たち近代人はマネーに追いまくられるようにして、
  *常に競争し
  *終わりなき成長を追い求め
  *それでもなお、貧しいものはより貧しく、富めるものはより豊かになる富の集中にあえぐこととなる

 1982年ドイツでの研究では、利子率5.5%の一年間に2700億マルクが利子として授受され、その結果富裕なトップ10%の世帯に他の90%の世帯から342億マルクが集中していた。全米トップ500世帯の所得は83年から89年の間に2.5兆ドルから5兆ドルに。世界トップクラス富裕層447人の資産合計は、全世界人口の半分の人の年収合計に等しく、世界3代億万長者の資産は最貧48カ国のGDPを上回っている。

2.2020年、5つのシナリオ
 こうした近代マネーの矛盾が限界に達しつつあるのが現在である。行き着く先を予測する。

*1「予想された未来」シナリオ
 現在の延長線上に未来があるとするもの。世界的な高齢化、情報革命、環境問題など限界が明らかであり、また「お金」そのものが変質しつつあって、このシナリオはあり得ない。

*2「企業支配のミレニアム」シナリオ
 国家が崩壊し企業が世界を支配するとするもの。グローバル企業がさらに力をまして、逆に国民国家が権力を失う。

*3「閉鎖的コミュニティ」シナリオ
  近代マネーが崩壊し、大恐慌、経済混乱が続く中で極端な不安感が世界を支配する。身を守るために、閉鎖的なコミュニティが世界中に広がる。ローマ帝国崩壊後の世界で実際に起きた現象。

*4「生き地獄」シナリオ
 すでに現代アメリカで実現している。最低賃金では住宅を借りることさえ不可能であり、子供連れのホームレスが急増している。現在ホームレス人口の27%が子供。さらに着実に増大する。

*5「持続可能な豊かさ」シナリオ
 著者が求める理想像。近代マネーに代わるわけではなく、補完する形で地域通貨が発展し協働社会を構成していく。

3.地域通貨の歴史
 大恐慌による経済的混迷の中、世界中で地域通貨が動き始めた。ハイパー・インフレに襲われたドイツで、ヴェーラ・システムは石炭との兌換性を基礎に広がり、全土で2000を越える企業が利用するまでになった。しかし中央銀行により禁止。

 同様にオーストリアの小さな町、ヴェルグルでスタンプ券が誕生。市が公共サービス予算の不足を補うために発行、市内に通貨として広がり、通常通貨の12〜14倍の効率で雇用を生み出していった。こちらも中央銀行から禁止措置に。

 バルト3国、ブルガリア、カナダ、デンマーク、エクアドル、フランス、イタリア、メキシコ、オランダ、ルーマニア、スペイン、スエーデン、中国、フィンランド、アメリカなどで誕生。現在にまで引き継がれているのはスイスのみ。

 地域通貨は経済混乱期に発生し、インフレもなく雇用創造など有用性を発揮するが、影響が無視できなくなるにつれ、国家通貨を守る立場から中央銀行が禁止する。経済混乱への対処法をなくした市民は行き先をなくしてファッショ的政権に期待し始め、ヒトラーの誕生につながっていった。

4.地域通貨の現在
 84年あたりから地域通貨が世界中で動き始めた。90年で100、95年で1000、98年で2000程度の補完地域通貨が動いている。日本は92年くらいから急速に増大、98年で300程度か。とはいえ、現在のところ中央銀行からは無視される程度の影響力。

 唯一ニュージーランドだけが、中央銀行承認の通貨となっている。国家的構造改革の一環として、社会福祉省から資金援助。労働者が地域通貨により地域社会で働き続けることができるので、労働者が技術を磨き維持することができる、「通常の」雇用を探す動機付けとなる、自営業を開始するきっかけになる、など効用が期待できるとしている。

 現在最も多いのはカナダで始まったLETS(Local Exchange Trading System)。スイスで利用者8万人を擁するWIR。日本でこの方面の中心人物通産官僚の加藤敏春が提唱するエコマネーなどがある。

5.コミュニティ崩壊の世界的現象
 人類学によれば、コミュニティの発生は「お互いに与え合うこと」から始まる。距離的近さばかりか、言語、宗教、文化、血のどれも必ずしも関係しているとはいえない。現実にアマゾンなどで金銭取引が始まるとコミュニティは崩壊に向かう。
 世界的に広がるコミュニティ崩壊現象はこうした金銭取引の発展と無意味ではない。

6.地域コミュニティをつむぐ通貨
 近代マネーのような稀少で競争を引き起こすタイプの通貨はコミュニティを破壊していく。対して補完的通貨である地域通貨の場合、まず利子が付かないので競争を引き起こさない。マイナス(借金)がある程度大きくなっても、どうしても返さなければならないという圧力が働かない。あくまでもお互いの労働や好意などの交換のためのもの。「お互いに与え合うこと」をむしろ実践しやすくするための通貨と言える。このため、むしろコミュニティは再生していく傾向にある。

 日本の健康ケア通貨(ふれあい切符)は介護等の自ら行ったサービス時間を将来に向け貯金していく仕組み。かといって、将来是が非でも使おうという人は少ない。

 コミュニティの中で自らの存在価値を確かめることで、老人たちが健康になり寿命が延びるという効果もある。保険会社が、こうした効果を期待して地域通貨を支援する例もある。

 お金はないが時間はある人の時間を活用するだけではない。ビジネスの余剰能力(生かされない固定費)を活用するために地域通貨を活用する事例も。たとえば食事時間以外のレストランや週日のリゾートホテルなどは、半分を地域通貨で利用可能とする。

 通常通貨では市場性のなかったような趣味や才能を流通させる効果もある。暖かい通貨、地域通貨はむしろコミュニティをつむぐ通貨として期待できる。

2002年5月26日


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